【イベントレポート】国際商業会議所(ICC)日本委員会主催「デジタル貿易カンファレンス」に参加しました。
当社が参加した下記イベントについて、当日の様子やディスカッションの内容をご紹介します。デジタル貿易、貿易DXにご関心をお持ちの方はぜひご一読ください。
【イベント概要】
タイトル |
デジタル貿易最前線第3弾 |
日時 | 2024 年 12 月 11 日 (水) 16:00- 17:30 セミナーおよびパネルディスカッション 同日 17:30- 18:30 ネットワーキング |
開催場所 |
日本商工会議所会議室 (丸の内二重橋ビル 4階) |
参加対象 |
国際商業会議所日本委員会 会員企業 およびデジタル貿易にご興味のある企業の方。 |
【プログラム内容】
第一部 |
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1. |
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講演タイトル |
「A Status Check on Digtal Trade Worldwide」 |
講演者 |
ICC Digital Standards Initiative (DSI) シンガポール局長 Ms. Pamela MARS |
2. |
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講演タイトル |
「貿易における貨物保険証券データのグローバルスタンダード策定について」 |
講演者 |
東京海上日動火災保険㈱ 海上業務部シニアエキスパート |
第二部 |
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3. |
基調講演 |
講演タイトル |
「日本の貿易手続デジタル化の現状と経産省の取り組み」 |
講演者 |
経済産業省通商政策局貿易振興課 課長補佐 石田励示氏 |
4. |
フリーディスカッション |
各社の貿易デジタル化の取り組み紹介、フリーディスカッション |
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モデレーター |
一般財団法人 日本情報経済社会推進協会 主席研究員 横澤 誠氏 |
パネリスト(順不同) |
株式会社トレードワルツ 代表取締役 執行役員社長兼CEO 佐藤 高廣氏 |
【講演内容の要約】
1. A Status Check on Digital Trade Worldwide
ICC DSIのMars氏は、貿易デジタル化の実現には4つの課題解決が必要だと指摘。第一は標準化。貿易データや文書が関係者間で共有されるためには標準化が不可欠であると述べた。標準化に向け、ICC DSIでは36種類の貿易文書を分析し、グローバルな相互運用性を可能にするためのキー項目を抽出したと説明した。次に、信頼性の観点で、システムの信頼性を評価するフレームワークを10月に発表したことを紹介した。さらに、法改正の重要性についても触れ、世界のGDPの37%を占める国々が、国内法をMLETR(電子的転送可能記録のためのモデル法)に整合させ、27%の国が、同様の法改正を進めていると述べた(日本はこちら側のグループに所属)。最後に、”実行”の重要性を強調、具体例としてヴァーレ・インターナショナルとHSBCによる貿易金融の事例や、兼松がTradeWaltzを利用して輸入関連書類をデジタル化した事例を挙げた。
2.貿易における貨物保険証券データのグローバルスタンダード策定について
東京海上日動火災保険の新谷氏は、貨物保険証券データの標準化は、日本主導で進められている取り組みであると述べた。2019年には損保3社が共通基準を策定し、これをTradeWaltzに実装済みである。また、2023年から国連CEFACT日本委員会で標準化作業を開始し、2024年8月には業務要件仕様書を提出したと説明。標準化の障壁としては、各国のローカルルールや用語の異同がある点を指摘した。しかし、日本がこの標準化の取り組みを引き続きリードできれば、標準化のためだけに負担しなければならないシステム改修コストの削減や、また外国の保険会社に対して競争優位性を確保できるといったメリットを日本の保険会社は享受できると強調した。
3. 基調講演:「日本の貿易手続デジタル化の現状と経産省の取り組み」
石田氏は、近年のパンデミックやロシア–ウクライナ戦争などが、国際物流を混乱させたことを背景に、貿易デジタル化の必要性について説明、デジタル化の目的は貿易コスト削減と有事の際のサプライチェーンの強靱化であると述べた。しかし、デジタル化は一筋縄ではいかず、特に貿易プラットフォームのユーザー拡大や初期導入コスト、プラットフォーム利用による効果が発現するまでの時間が課題であると触れた。また、国際標準に準拠した貿易分野データ連携および貿易相手国のデジタル化も同時に進める必要があるとも指摘した。最後に、電子船荷証券(eBL)の法制度整備を含む12のアクションプランを経産省が、推進していることを紹介した。
4. フリーディスカッション
<各社の貿易デジタル化の取り組み紹介>
フリーディスカッションでは、冒頭で各社の貿易デジタル化の取り組みが紹介された。
トレードワルツの佐藤氏は、トレードワルツは「貿易の未来をつくる」というミッションを掲げ、経済産業省の施策を具体化し社会実装を進めていると述べた。貿易の現場において、アナログな情報伝達による無理や無駄が、長らく続いている課題を認識しており、この状況を改善するため、データを保有するプラットフォームと連携し、荷主、フォワーダー、その他関係者間でデジタル情報が円滑に流通する仕組みを構築する必要性を強調した。貿易がデジタル化されていない現状では、業務が適切に遂行されているかが不透明であり、コンプライアンス対応の観点からもデジタル化が求められると指摘した。直近の取り組みとして、LC買取の電子化に着手しており、個別企業が独自にシステムを構築するのではなく、共通のプラットフォームを整備することで、業界全体のコスト競争力を向上させることを目指している。これら取り組みにより、日本の国力向上に寄与するプラットフォームを構築していきたいとの意向を示した。
GLEIF 中武氏は、Global LEI 財団が、LEIと呼ばれる法人IDを管理していることを説明した。この法人IDは、2024年4月からデリバティブの当局報告において制度化(義務化)され、日本では既に1万2千社が登録済みであると述べた。LEIはデジタル版の名刺のようなものであり、各法人に関する様々な証明書情報と紐づけることで、貿易への応用が可能であると説明した。しかし、デジタル化された情報は模倣が容易であるため、セキュリティレベルの低下が懸念される点を指摘した。こうした背景から、法人IDとしてのLEIが、信頼性の担保において重要な役割を果たすと述べた。さらに、中国やインドがこの重要性に着目し、既に数十万件のLEIを発行していることに触れた。この動きは欧州のeIDAS規則を見据えたものであり、LEIの普及とその影響力が今後さらに拡大する可能性があると説明した。
JIFFAの河地氏は、JIFFAが複合輸送を行う物流会社で構成され、現在551社が加盟していることを紹介した。JIFFAではMTBL(Multimodal Transport Bill of Lading)を会員に提供しており、輸出入の税関申告においてはデジタル化が進展していると述べた。PDFで書類を提出・処理することが一般化しており、紙の原本を提出する必要がほとんどなくなっている現状を説明した。また、荷主からもPDFでの書類共有が一般的となり、原本を受領することが減少していると述べた。しかし、フォワーダーから荷主に紙の書類を渡す場合が多くあり、その代表例が船社のBLやMTBLであり、荷主からBL原本を要求される状況が続いている。MTBLのほかにSea Waybillも存在するが、依然としてBLの利用が全体の60%を占めていると説明した。さらに、JIFFAのBLは日本法準拠なので、商法の改正を待ってJIFFA電子BLの利用を開始する予定であり、2026年からJIFFA会員にJIFFAeBL(電子BL)が提供できるように進めている。ただし、商法の改正を待たずとも、JIFFA会員はFIATAのeBLは利用可能であり、JIFFA会員は物流系のプラットフォーマーのサービスを通じてJIFFAの紹介でFIATAの電子BLを発行できることを説明した。
みずほ銀行の一木氏は、みずほ銀行が次世代および新規ビジネス創出プロジェクトに取り組んでいることを紹介した。プロジェクトは2年前から部門の垣根を越えた形で進められている。具体的な取り組みとして、貿易プラットフォームであるTradeWaltzへの出資や、クロスボーダー送金の高度化を目指すProject Agoraへの参画が挙げられる。これらは協調領域における取り組みであり、同行が参画する意義を述べた。また、中小企業の資金調達をサポートするために、邦銀として初めてサステナブルサプライチェーンファイナンスの取り扱いを開始したことにも言及した。この仕組みは、サステナビリティに関連するパフォーマンスが調達金利に連動する形式である。さらに、Tier2やTier3のサプライヤーにファイナンスを提供するディープティアファイナンスにも取り組んでおり、中小企業を含む広範な企業群に対する支援を強化していると説明した。
豊田通商の葛城氏は、豊田通商における物流部の役割と取り組みについて説明した。同社には営業本部が8つあり、物流部はそれら営業部の代わりに横断的に物流業務を担い、自社の書類作成システムや船積書類保管システムを用いてのペーパーレス化で既に全社レベルの業務効率化を進めていることを紹介した。さらに足元では、TradeWaltzとAPI連携し、輸出通関指示、非特恵原産地証明書の電子申請、LC情報の授受を行う取り組みを説明した。しかし、これまでに既に自社で進めてきた効率化がある程度実現できていたため、TradeWaltzによる効率化の余地は限定的であったとも述べた。一方、荷主がTradeWaltzのような貿易プラットフォームを連携利用するには、社内システムを改修する必要があるため、投資負担も大きく費用対効果を得ることは容易ではないことに言及。今後より多くのプラットフォーム利用荷主を拡大するためには、特にユーザーが安定的に増えるまでの駆け出し時期においては、さらなる公的支援(補助金の拡大)が必要不可欠であると述べた。また、デジタル化が進むということは既存の仕事の仕方が変わるということであるため、関係者はその波に抗うのではなく、受け入れた上で違った形の付加価値を考えていかねばならないと、商社としても危機感を持って臨んでいると締め括った。
<フリーディスカッション>
その後のフリーディスカッションでは、日本情報経済社会推進協会の横澤誠主席研究員が、モデレーターを務めた。
横澤氏は、貿易データの相互運用性が、利便性を高め、DX化に繋がる重要な鍵であると述べ、議論の口火を切った。これに対して、GLEIF中武氏は、DX化を進める上で、ユーザーがどのプラットフォームを選ぶべきかという課題を指摘した。中武氏は、特定のプラットフォームや技術を基準に選ぶのではなく、グローバルで通用する貿易データを取り扱っているか、という観点で選ぶべきであると述べ、貿易データの相互運用性を強調する横澤氏に同意する見解を述べた。
横澤氏は、経済産業省が推進する12個のアクションプランの中で、どれが最も重要かという質問を経産省石田氏に投げかけた。これに対し、石田氏は、すべての貿易書類を一足飛びに電子化することは難しく、現在は紙と電子が共存する過渡期にあると述べた。この過渡期においては、政府の支援が重要であり、特に貿易相手国のデジタル化も同時に進める必要があると指摘した。また、石田氏は、例えば中南米では未だにオリジナルBLを求められる場合があることを挙げ、相手国でも電子的手法が受け入れられるよう働きかけを進めるべきだと述べた。最終的には、紙と同等のレベルで電子的な選択肢が利用できる状況を目指していくと強調した。
当日の様子(写真)